本書の特徴と使い方
はじめに 本書の構成 本書の使い方 授業のヒント
はじめに

本書は,小学校の総合的な学習の時間を利用して,英語の授業を楽しく進めるためのゲーム集として編集したものです。主に小学校の学級担任の先生が指導されることを想定し,英語を教えた経験のない方でも無理なくリードできるように配慮しました。基本的には3年生以上のクラス全体で楽しめることを念頭に置きましたが,幼稚園や小学校低学年から中学初学年まで,あるいは一般の英会話教室でもご利用いただけます。

ここであらためて小学校の英語の授業になぜゲームを取り入れるのか,その理由に触れておきます。母語である日本語習得において,まず文法規則を覚えるという方はいないと思います。英語習得においても,できるだけ母語習得の原点に立って,できるだけ無理なく自然に身につけることが大事だと考えます。ゲームの利用は,その条件にぴったり合うのです。私たち大人が想像する以上に子どもたちはゲームが好きで,楽しいゲームは何度でも繰り返したがります。目標とする単語や表現をゲーム化することによって,自然な状況の中で英語に接することができるので,子どもは少しの苦痛を感じることもなく,ほとんど無意識のうちにことばを吸収していくのです。ゲームは遊びでありながら,小学生にとってはその遊びそのものが英語学習となるのです。

子どもは好奇心のかたまりなので,自分たちにとって未知の言語である英語に接して,「どういう意味だろう」「使ってみたい」という思いにかられます。一方,「小学校英語」を担当する先生方も,授業を効率的に指導し,少しでも子どもたちの英語力を高めたいと願っていらっしゃるはずです。本書はこの両者の思いをかなえたい,という思いをこめて,私たちが試行錯誤を重ねて得た知識とノウハウの一端をまとめたものです。

以下に本書の構成と使い方,特長を紹介しますが,あわせて授業の進め方のヒントを最後に付記しましたので,役立てていただければ幸いです。

本書の構成

本書の内容は,大きく分けて,ゲーム前に行うウォームアップをまとめた「ウォームアップのための活動集」と,本番のゲーム集である「ゲーム紹介」,ゲームの中で使う先生と子どものための「クラスルームEnglish」という3本の柱で構成されています。

最初のPart 1「ウォームアップのための活動集」は,ゲームで使用する単語や表現を楽しくより簡単に学ぶための方法をまとめたものです。ゲームを始めても,子どもがゲームで使う単語や表現をよく覚えていないと肝心のゲームの楽しさが半減してしまいます。本番のゲームのテーマにあった歌やチャンツ,カード,カルタなどを使ってウォームアップされると,よりスムーズにゲームに入っていけます。45分の授業時間内ウォームアップと本番のゲームをレベルに合わせて,バランスよく組み合わせてください。

本書の中心をなすのはPart 2「ゲーム紹介」で55種類のゲームを用意しました。比較的ルールが簡単で指導しやすく,子どもが何度でも楽しめるようなゲームを中心に選びました。その選択に当たっては次のような点に配慮しました。

 1)子どもの関心に合っているか  
 2)子どものレベルに合っているか
 3)目標としている言語材料はふくまれているか   
 4)ルールは複雑過ぎないか
 5)子どもが全員参加できるものであるか 
 6)子どもに満足感や達成感を与えられるものであるか
 7)所要時間に柔軟性を持たせているか  
 8)先生の準備にあまり負担のかからないものであるか

子どものレベルに合わせて,または1年間のスケジュールの中で適当に組み合わせたりアレンジしたりしてお使いください。

最後の「クラスルームEnglish」については「ゲームの進め方」で簡単にふれていますが,詳細については次頁の囲み記事で説明していますのでご覧ください。
巻末に,Part 4「Summary of Games」としてALTのために「ゲーム手順の概略」の英訳をつけました。ALTと一緒にゲームを進める場合に活用して下さい。また,最後にはPart 5「絵カード・図版集」をまとめてありますのでコピーして使用して下さい。

本書の使い方

【ゲームタイトル】
ゲームのタイトルの上に目標と難易度(A,B,C)を示してありますので選ぶ時の目安になります。目次にも同様な表示をしてありますのでゲーム頁にすぐアクセスできます。黒板の右側の吹き出しには,目標の語彙や表現を英語と日本語で簡明に表示しました。
なお,難易度の下に表記してある(国際)とは国際理解の要素をもったゲームを意味しています。

【ゲームの概略】
●目標
 ゲームの目標を示してあります。

●語彙
 ゲームで覚える単語や表現を具体的に掲げてあります。

●形態
人数やグループ分けを示してあります(1クラス30〜40名を想定してありますが,少人数の場合は適宜アレンジしてください)。

●場所
主に教室を使用しますが,そのままで使用する場合とオープンスペースを作って行なう場合があります。またゲームによっては広い場所(プレイルーム,体育館など)がやりやすい場合があります。

●準備
ゲームに必要な教材をあげてあります。巻末の絵カードを1.5倍程度に拡大コピーし,画用紙に印刷して切り取ればそのままカルタとして使えます。図版なども同様にコピーしてお使いください。 
なお,フラッシュカードの作り方,使い方については「Part 1 ウォームアップのための活動集」の「3. カード」の準備で説明していますのでご覧ください。

【ゲームの進め方】
●ウォームアップ
ゲームをスムーズに行うために,そのゲームの目標語彙や表現を口ならしするための歌やチャンツ,カード,カルタなどの簡単なゲームを紹介してあります。必要に応じてお使いください。

●手順
ゲームの手順をステップごとに分かりやすく紹介してあります。ゲームの内容やイメージを具体的に把握していただくために各ゲームごとにイラストを付けました。

●アドバイス
 実際にゲームをやっていて気がついたことをのせましたので参考にしてください。

●バリエーション
単語や表現形態,ゲームの進め方を少し変えたりアイディアを加えたりすることによってさらに効果的なゲームとなります。そのヒントを紹介しました。

【クラスルーム English】
ゲーム中によく使われる英語を次のように先生用と子ども用に分けてまとめました。
 「先生のせりふ in English」と「子どものせりふ+つぶやき in English」

先生用は,最初の間,英語の後に日本語訳を簡単に入れながら使ってください。動作やその場の状況から説明しなくとも分かるものはそのまま日本語なしで使いましょう。子供たちはまず日本語で自己表現しますが,それを英語で言えるよう に徐々に指導していきます。最初から全部を使う必要はありませんが,少しずつでも授業に取り入れることによって英語表現の幅が広がります。

Part 3に各ゲームとは独立した,よく使われる教室英語を先生用,子ども用に分けて掲載しました。先生用は目的別,子ども用は五十音順になっています。こちらも目的にあわせてご利用ください。

【ティータイム】
息抜きをかねて,ゲームの内容に関するエピソードや知識などを紹介します。先生方がゲームを進める上で参考になればと思います。また子どもが興味を引くと思われるものがありましたら,ぜひご紹介ください。

本書の最大の特長……クラスルームEnglish (Classroom English)

クラスルームEnglish(教室英語)は本書の最大の特長です。

従来クラスルームEnglishは,あいさつや,先生からの指示(“Listen to me.”「聞いてください」“Look at the blackboard.”「黒板を見なさい」)などに重点が置かれたものが中心でしたが,本書ではゲームに対応したクラスルームEnglishを紹介して,先生,子どもが互いに発信できるように工夫しました。

先生:“Cut out the flags.”「旗を切り取ってください」 子ども:“Like this ?”「こんな風に?」(「13. 国旗をあげて」より) このように,ゲーム中にやり取りされる英語は状況を判断しやすく,何回も繰り返し言うことなので定着が期待できます。ただし子どもには「…と言いたいときは,英語で…と言います」と一言ご説明ください。

ゲーム中に“No Japanese Time”を設けることによって,子どもはことばにつまり,「僕の番…ってなんて言うのですか?」「勝った!ってどう言うのですか?」と次々に聞いてきます。そうしたらしめたものです。そこで定着してしまえば,次からは英語の私語がゲーム中に飛び交います。“It's my turn !”,“I won !”,あるいは,“It's not fair !”「ずるいよ!」など,自分にとって必要なフレーズはとても早く覚えます。

本書の中で先生用の英語は「先生のせりふ in English」,子ども用英語は「子どものせりふ+つぶやき in English」として各ゲームの中に組み込んであります。子ども用に「つぶやき」を加えたのは子どもは台本に載っている「せりふ」以外に,実際の授業ではこちらが予想しないことをつぶやく場面が多かったので,それをできるだけ拾い集めてせりふに加えてみたのです。ちょうどお芝居の中でアドリブに当たるものかもしれません。もちろんお芝居の中で主役は子どもたちで先生は台本,演出,監督,脇役を担ってもらいます。ただ初心者の方が多いかもしれませんので,せりふはできるだけ短くしました。子どもは大部分が3語以内,先生のせりふもシンプルです。

巻末の「クラスルームEnglish」は,教室英語をさらに幅広く使っていただけるようになっています。メインのゲーム紹介の頁ではゲームに即したものを紹介していますが,巻末では,さまざまな場面に応じて利用できるようにインデックス順にまとめました。

授業のヒント

1. 学級担任であることの強みを最大限に活用しましょう

先生は,学級担当として子どもの能力や性格をさらには興味や関心を十分に把握しています。ですからALT(Assistant Language Teacher)の助けがない場合でも,英語に親しみを持たせるという目的に沿った,活発で効果的なゲーム活動が可能です。

2. 教室に異空間を演出しましょう

教室にいろいろな小道具を置いたり飾ったりするだけでいつもの授業と違った雰囲気を感じてスム―ズに英語空間に入っていけるかもしれません(例:世界地図,アルフアベット表,時差表,外国の風景を写した写真,エアメール,英語活動で作った作品など)。英語ルームが用意できれば理想的ですね。

3. 「クラスルームEnglish」と「日本語」の両方を効果的に使いましょう

小学校の授業では原則的にゲームに入る前のルールや,やり方については日本語で説明してかまわないと考えています。英語で説明する時でもジェスチャーを加えると生徒の理解が深まります。最初のうちは,授業開始と終了時のあいさつは英語を,ゲーム中の簡単で繰り返し使う指示は英語に日本語やジェスチャーで補い,そして段々と英語を使う量をふやしていかれればよいのでないでしょうか。また、あまり細かい文法のルールにこだわることなく先生が英語を話すことを楽しむとその雰囲気が子どもに伝わり英語の輪が広がっていくことでしょう。
ここで典型的な会話例を紹介しておきましょう。(T-Teacher, S-Students)

 例(ゲーム開始)
  T: How are you, class?
  S: Fine,thank you. 
  T: Great. Now,let’s begin with flag game.(旗を持ちながら)
  S: やったー。ゲームだ。
  T: If you raise the wrong flag, you must sit down.
  「まちがった旗をあげたら、すわりなさい。」
  S: OK.

  (ゲーム終了時)
  T: That’s all for today. Did you enjoy ?
  S: Yes!
  T: Any comment? 「だれか感想を言ってください。」
  S1: 「ゲームで一番になれてうれしかった。」
  T: Oh, you are happy to be No.1. (人差し指で一番を作る)

4. 英語の授業中は子どもに“No Japanese !”の時間をつくりましょう

ゲーム中に“No Japanese Time”をつくりましょう。子どもはゲームに夢中になって何か言葉で反応をしたくなるはずです。その時が「クラスルームEnglish」の出番です。子どもにそのゲームに合ったいくつかの英語を使うようにアドバイスしておきましょう。もしうっかり日本語が出てしまったら3個でマイナス1点,クラスルームEnglishがたくさん出たグループにはプラス点をいれましょう。「クラスルームEnglish」さえもゲームにしてしまえばきっと楽しめます。

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