三省堂のWebコラム

ことばのカタチ。

よく聞け

松田 青子

小説家・翻訳家
『高等学校現代文B[改訂版]』新教材「少年という名前のメカ」原著者

2017年06月27日

よく考えてみたら、私は高校の二年間をアメリカのコロラド州で過ごしていたので、日本の国語の時間の思い出があまりない。向こうの国語の授業は教科書がなく、日本の教科書のように、作品の抜粋が載っていて、そこだけ授業で取り上げるというやり方は一度も経験しなかった。市販の小説を丸々一冊読むか、短編集からいくつか選んで読む、という感じだった。授業で使用した作品は、必ず、はじめから終わりまで読んだ。そしてその内容とテーマなどについて話し合った。

 

 

日本に帰ってきてから通った高校はちょっと変わっていた。国語の先生はほかに画家と占い師をやっている女性で、面白いので人気があり、授業中も、少人数のクラス全体で彼女としゃべっていたという記憶しかない。本は学校と関係なく読んだ。

 

 

英語の先生から、私が好きそうだからと、『アリーテ姫の冒険』をもらったことを覚えている。彼女の授業で一番心に残っているのは、来日して日本のプロ野球の審判をやっていた白人男性が、彼の判定に不満を覚えた選手たちともめたことで、怒って帰国したというニュースを見せられ、どう思うか意見を求められたことだ。

 

 

慣れない土地で責められてかわいそうだというようなことを生徒たちが言うと、彼女は首を振り、ニュースで流れた来日時の審判のインタビューをもう一度よく聞くようにと言った。ほら、teach という言葉をこの人は使っている。日本の選手たちに自分が教えてやるんだという気持ちだった。だから反論されて腹を立てた。他国の文化に歩み寄る気がなく、自分は教える側と思い込んでいるのは驕りだ、と。

 

 

リスニングの授業の出来事だったのではないかと思うが、よく聞け、と私たちに言った彼女のことは忘れられない。

(「高校国語教育2017年夏号」2017/6発行より転載)

プロフィール

松田 青子    まつだ・あおこ

小説家・翻訳家
『高等学校現代文B[改訂版]』新教材「少年という名前のメカ」原著者

話し言葉の調子を生かし、日常に寄り添いながらもそれらを深く捉え直す視点を含んだ作品を発表している。作品に「スタッキング可能」「英子の森」などがある。

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